「キレる」ことへの対処法は、現代人必須の技術 ー 中野信子「キレる!」(小学館文庫)

2019年9月9日月曜日

中野信子

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 最近、あなたは相手の些細なことに反応して急に感情的になってしまったことはないだろうか、あるいは、知り合いやビジネスの相手方が思ってもなみないところで急に怒りだした場面に遭遇したことはないだろうか、もし、両方ともないなら、あなたはとても幸運です。

だが、そうしたあなたがいつ遭遇したり、自分がやってしまうかわからないのが「キレる」という現象である。
そうした「キレる」行為に対しての、全般的な「処方箋」をアドバイスしてくれるのが、本書『中野信子「キレる!」(小学館文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 損するキレ方、得するキレ方
第二章 キレる人の脳で起こっていること
第三章 キレル人との付き合い方
第四章 キレる自分との付き合い方
第五章 戦略的にキレる「言葉の運用術」

となっているのだが、本書は、「キレる」行為をすべて封じ込めてしまう手法を教えてくれる本ではないところにまず注意しておこう。本書によれば

前述した″テレビ文化人にとどまらず、政治やビジネスの世界でも、自分のポジションを築き、成功している人は、怒らない人、キレない人ではなく、怒るべきときにきちんとキレることができる人です。
怒るべきときに怒らず、つまリキレないで、その怒りをため込むのではなく、上手にキレることで、多くの人の心をつかみ、自分の立場を手に入れています。
キレることは、激しい感情の発露ですから、それだけ人の心も揺さぶることになるわけです。
つまり、キレるという行為は、上手に使うことで、人間関係において自分の居場所をつくり、成功するためには欠かせないコミュニケーションのスキルであると言えます

ということで、「キレないけれど搾取される人」ではなく、「キレるけれど尊敬される人」のススメである。

 で、上手にキレるためには「キレるメカニズム」を解明しないといけない、ということで、ノルアドレナリンやアドレナリンの作用や、テストストレンやセロトニンといった内分泌ホルモンの仕業などについても、 筆者専門の脳科学の立場から解説してくれている。筆者の他の著書とダブルところもあるのだが、ここらは復習を兼ねて読んでおこう。最近、よく起きる「児童虐待」や「毒親」の行動についても、脳科学的に解き明かしてあるので、「雑談ネタ」としてもおさえておきたいところですね。

そして、こういったことを踏まえての「キレた人」への対処として、ケースごとに具体のノウハウが示されていて、例えば「他人の子どもの才能をねたんで嫌がらせをするママ友」には、その妬みの感情が発生している素に着目して

対処法としては、”獲得可能性″と”類似性”を遠ざけるということが有効です。
しかしながら、性別や年齢などは変えることができませんから″類似性″を下げることは難しいと言えます。
この相談の場合は、多獲得可能性″を下げることが考えられます
″獲得可能性”を下げるための方法は、相手の保護者に「あそこまではできない」「あの娘にはかなわない」と思わせることが最も効果的です

であったり、怒りっぽくなっている老人、特に老親への対処は、老化によって「記憶の定着」が難しくなっていることに着目して

脳細胞は使わないと定着ができないので、前頭葉や海馬に楽をさせないことが重要です。
年をとると、だんだん人とコミュニケーションをとるのが億劫になったりしますが、どんどん新しい人に会うなど、認知負荷がかかることをやらせてあげるとよいでしょう。
(略)
さらに、精神を安定させ、脳の機能を高めるセロトニンを分泌させるために、セロトニンが増える食べ物を食べさせるなど、脳の栄養を補うように心がけましょう。
セロトニンを分泌させるためには、その材料となるトリプトファンを摂取するため、肉やナッツは積極的に食べさせましょう

といったことが有効であるようです。お悩みの方は試してみるとよいでしょう。

このほか、「最近、キレやすくなってるな」と思い始めている人に向けての自分でできる処方箋であるとか、他人にいいように利用されないための「キレる方法」とかもアドバイスされているので、ここらは原書で確認してくださいな。特に「日本人はキレることも喧嘩も慣れていません」と本書にもあるように、うまく「キレる」ことを覚えないと、グローバル社会の中では損することが多いようなので、海外とのビジネスが多くなる若いビジネスパーソンはぜひとも身に付けておきたい「テクニック」といえますね。
ちなみに、うまい「キレ方」の例として、筆者は「深夜のダメ恋図鑑」という人気漫画の会話例を推奨しているので、興味のある方は読んでみてもよいかも。Amazonのレビューでは「悪口が過ぎる」という評判もありますが、当方が読んだところでは、毒を含んだ「切れ口」が堪能できます。

【レビュアーからひと言】

「和をもって貴しとなす」の時代は遠くなってしまったようで、「キレる」人が日常茶飯事的に出現し、さらには喧嘩慣れしているグローバル・ビジネスの渦の中に放り込まれている環境の中では「キレる」ことへの対処法も、大事な処世術の一つとなってきているようだ。
本書を読んで、その一端でも身に付けておきたいところですね。


(追記)

「キレる!」では、相手になめられたり、相手の都合のいいように利用されて、自分だけが損をしないために、「適切な場所で、適切な相手に、適切にキレる」ことを推奨しているのだが、この「適切にキレる」コツを、交渉術の観点から、その効果を検証してみた。

「交渉術」については、いろんな流儀が乱立している状況でちょっと迷うところなのだが、「藤沢晃治氏の『「交渉力」を強くする(ブルーバックス新書)』という本では

〇交渉に新青する10の原則
〇交渉の五大原則
〇交渉で勝つための16の基本原則

がアドバイスされていて、その3つ目の「交渉で勝つための基本原則」として

①欲しがらないふりをせよ
②交渉決裂の恐怖に耐えよ
③正しい根拠で主張せよ
④相手の期待値を下げよ
⑤巧みにふっかけよ
⑥効果的に脅せ
⑦相手をあせらせよ
⑧相手の話はよく聞け
⑨相手に共感を示せ
⑩相手を助けよ
⑪「相手の譲歩案」を自ら提案せよ
⑫自分の譲歩は高く売れ
⑬譲歩は小出しにせよ
⑭成果を欲張るな
⑮第三の道を探せ
⑯メールだけの交渉には注意せよ

があげられている。

この「交渉術のキモ」的なところが一番奇をてらっておらず、網羅的で、なおかつオーソドックスなようなので、これを使わせてもらうことにしよう。

(それぞれの基本原則の詳細については原書のほうで、具体の事例を引用して、悪い交渉と上手い交渉とを例示してあるので、興味ある方は原書のほうで)

 まず、「キレる!」のP160に

日本はみんなと仲良くすることがプライオリティの高い文化なので、正々堂々ハンドの優劣で勝敗を決めるというのが、”正しく”て、駆け引きやはったりで相手にゲームを棄権させるのは”狡い”という思いがあるのかもしれません。
しかし、ポーカーはゲームです。勝ち負けが目的ですから、勝つために使われるクブラフ″は、戦略的に、強く自分の意思を相手に伝えるもので、つまり戦略的に多キレるクことと同じコミュニケーションテクニックだと言えます。
(略)
カモにならないための方法としては、相手がはったりできたときに、降りるばかりでなく、勝負できるかどうかを見極める冷静な計算力を持つことです。

という記述があって、これが「上手にキレる」ためのコツの一番目。要点は、相手のブラフに動揺することなく、またブラフに対して、正しいか間違っているかといった「正悪」の基準でなく、冷静に戦力分析しなさいよ、ということで、「勝つための交渉術的には、

①欲しがらないふりをせよ
⑤巧みにふっかけよ
⑧相手の話はよく聞け

あたりが該当しているようですね。まあ、相手の戦力や戦術をきちんと把握して、自分のそれと比較しておくのは基礎中の基礎といえるようですね。

次にP105から書かれている「上手なキレ方」のコツの二番目

日本人はキレることも喧嘩も慣れていません。
″喧嘩はいけない″という文化ですからナイーブで、キレられたときの対処が訓練されていません。日本人は反論されるとシュンとなってしまい議論も苦手です。
(略)
”人を論破する!のではなく、”論”を破る、”主題を論破する”のです。
(略)

勢いや激しさで相手を黙らせることではなく、攻撃した相手が「なかなかやるね」と一目おいてくれたり、この人は言う時には自分の意見を言うのだ、という”あなどれない人間”だという見方をされるキレ方を目指しましょう

気持ちでキレても言葉ではキレない

というところは

⑨相手に共感を示せ
⑩相手を助けよ

あたりでしょうか。こちらの要求のキモをのませたり、相手がこちらの領分を侵略してくるのを止めればよいことなので、相手をせん滅してしまうことが目的としていけません。

そしてP174の

キレていても相手をフォローするひと言を忘れない

やP180の

キレるときに、相手の人格ではなく、相手の行動だけを否定する

はまさに

⑩相手を助けよ
⑮第三の道を探せ

といったところですね。

こうしてみると、「上手にキレる」戦術は、上手な交渉のキモをおさえていることがわかります。「キレる」ことを自分の感情表現の一手段の側面だけでとらえておくのではなくて、「交渉」のテクニックとして、技術を磨いておくのがよいようですね。


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日本一の人口最少県の住人。地方公務員、社会福祉法人役員を経て現在、行政書士開業中。

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