「魔法の時代」「バーチャルの時代」の流行行動を読み解く ー 三浦 展「100万円で家を買い、週3日働く」(光文社新書)

2018年11月7日水曜日

三浦展 地域活性化

t f B! P L

 最初の序章のところに「本書は、最近の若い世代の中から、私が関心を持ってものを選んで取材したレポート集である」とある。

本書の表題だけをみて、いわゆるミニマリストを中心とした若い人のレポートと思っては読み間違ってしまう。ここで取り上げられているのは、「昭和の時代」をはじめとする「古き時代」に価値を見出し始めた若者の姿の数々のレポートなのであるが、それを媒介にしながら、「現代」の時代性を捉え直すレポートとしてとらえたほうがよさそうだ。


【構成は】


序 魔法の時代と「再・生活化」の時代

第1章 生活実験

 1−1 家賃1万円で利用で豊かに暮らす

 1−2 狩猟採集で毎月の食費1500円で暮らす

 1−3 100万円で東京郊外に家を買い、週3日働く

 1−4 夫婦2組、赤ちゃんも一緒にシェアハウスに暮らす

 1−5 8700坪の農地を買って週末を過ごす

 1−6 地域の人が老若男女一緒に食べる

 1−7 マンション街に「自由解放区」をつくった女性

第2章 昭和の官能

 2−1 遊郭とストリップにはまるアラサー女子

 2−2 スナックのママをしたがる平成時代

 2−3 昭和喫茶に恋し全国1700店舗を訪ねたOL

 2−4 全国の花街を集める大イベントを開いたアラフォー芸妓

 2−5 日本最古の映画館と歓楽街をつなぐ

 2−6 エロなおじさんを描くアラフォー女子

第3章 郊外の夜の娯楽

 3−1 「私は郊外に快楽を提供したい」というアラフォーママ

 3−2 空き家に住み、流しと屋台で歌う東京藝大OG

 3−3 退屈なニュータウンの自宅兼事務所をスナックにする

 3−4 街道沿いの宿場町を再生する

第4章 新旧をつなぐ

 4−1 現代の長屋をつくる

 4−2 東京のど真ん中で古い商店をホテルに改造

 4−3 街全体をホテルに変える

 4−4 すたれた郊外商店街に「縁側空間」をつくる

 4−5 改造アパートからコミュニティをつくる

 4−6 空き店舗から街をつなぐ

最後の分析 あとがきにかえて


となっていて、デジタル生活から逃れて自然の中でミニマルに暮らす生活や、はるか遠くなってしまった「昭和」のエロスを再興する動きであったり、高度成長期の申し子であった「郊外」を夜の娯楽や人のつながりを紡ぎ直すことによって再生する取り組みを取り上げ、「最後の分析」で現代社会論を語る、といったつくりである。

【注目ポイント】

まず本書の読み方なのだが、様々な事例がこれでもか、というように展開される第一章から第四章を根を詰めて読んではいけないような気がしている。

本書のキモは、実は「最後の分析」のところにあるような気がしていて、本音のところは、最終章を読んでから、再度、第一章から第四章を読み返すと、それぞれの思いで行動している姿をシーンにあわせて切り取っていたかのように思われていたものが、実は、一つの「社会意識」のあらわれであったことがわかってくる。


それは、「序」のところでは


そういうリアリティのない時代にわれわれは生きている。

だからこそ、今ほどリアリティを求めたくなる時代はないのだ。魔法ではなく生活が欲しくなる。生き物として生きている実感が欲しくなる。ひとつひとつの行動がすべてリアルな生活、リアルなものをつくり、リアルな行動で成り立つ生活。「昭和」や「エロス」や「夜」に惹かれるのも、そこに濃密なリアリティがあるからである。


と表現されるものであり、最終章のところで


現代はたしかにバーチャルの時代である。バーチャルはすでに憧れではなく、むしろ抗うことのできない現実である。

だが、そこでは、人間の生は、まるでニーチェの描く末人のように縮小しているようにも見える。・・・空港でも会社でも街中でも、われわれの姿形はデジタル情報として把捉されている。

だからこそ、バーチャル(魔法)に対してリアル(生命・生活・生き物として生きるこ)を取り戻すことが求められる。昔ながらの生活が輝かしいものに見え始める。バーチャル化した現実の中で、アンチテーゼとしてリアルな生の実感に憧れる「再・生活化」の時代なのである(P232)


とされるものであって、乱暴に要約してしまえば、バーチャルで存在が薄くなっている我々が、生身(なまみ)として自分の身体で、触れたり、体験できるものとして、第一章の「生活実験」から第二章の「昭和」、第三・第四章の「郊外」が「選ばれている」と言う構図である。


とするならば、今の自然回帰、昭和の再評価といった動きは、人間の本質とかとそういった美しい論ではなく、実は、バーチャルな現代が「リアル」を求めるのに一番身近で手っ取り早かったから選ばれているに過ぎす、何かの拍子に簡単に移ろっていくものであるかもしれんね、と思った次第である。


【レビュアーから一言】

「下流社会」をはじめとして、「現代」を切れ味良く切り取り、分析している筆者なのであるが、本書では、自然や生活感を求める行動が実は「現代特有の「バーチャルな生活」が罰の形態で現れたものでは、という視点が、当方には、かなり新鮮に感じた次第。

「現代社会」を語る上では、おさえておくべき一冊と思う。


ついでにいうと、最終章の「理想の時代」「夢の時代」「虚構の時代」「魔法の時代」の時代分析はとっても興味深いですよ。


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日本一の人口最少県の住人。地方公務員、社会福祉法人役員を経て現在、行政書士開業中。

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