「組織内の教育」を再生する方法は?ー中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー」

2018年9月20日木曜日

中原淳

t f B! P L

 会社」あるいは「組織」の中での「伝承」が風化していると感じることが多い。本書『中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する」(光文社新書)』はもともと、マネジャー論として書かれたものなのかもしれないが、多くの部分が「会社内の教育、上司からの指導」ということに言及されており、当方としては、組織のノウハウやナレッジの伝承の方策や部下への指導・コーチング手法といった方向で読んでみた。

【構成は】

第1章 上司拒否と言う前に
第2章 内省するマネジャーー持論をもつ・持論を棄てる
第3章 働く大人の学びー導管から対話へ
第4章 企業は「学び」をどう支えるのか
第5章 企業「外」人材育成

となっていて、教育学者・中原淳氏と経営学者・金井壽宏がそれぞれ、相手の論述を下敷きに、冊子上で議論を重ねていくといった構成。

【注目ポイント】

まず、今の職場が直面しているのは

おそらく彼らは、自分たちの周りにいる上司が現状に追われてばかりいるようなのを見たり、難問を背負い込まされ、四苦八苦しているようだったりするのを観察しているうちに、だんだん上司との距離を置くようになり、「自分たちはああはなりたくない」と思うに至ったのだろう。その意味では、「上司拒否。」は「学習された結果」

というような、上司と部下の「分断」という現実で、ノウハウがうまく伝承されないのは、企業社会がマネジメントする時間のない「プレイング・マネジャー」を量産し、しかも教えるべき部下もろくに供給してこなかった、というように、むしろ企業側に原因のあることも多い。

ではあるのだが、企業側の非を鳴らしていても、やることはやらされるのが、勤め人の常。であるなら、自己防衛の意味でも、「教えること」のノウハウを味見つける必要があるよね、ということで、本書内で注目すべき、その一つが「裏マネジメント」という手法。
本書内では「裏マネジメント」とは「マネジメントの基本(=表マネジメント)だでは対応できない場合のマネジメントに光を当てた呼び名」とまでで明確な定義はないのだが、

裏マネジメントでは、目標そのものをみんあと一緒に探したり、手順がわからない仕事に取り組んだり、試行錯誤を繰り返したりする。端的に言えば「みんなで一緒になんとかやってみる」世界が開けている。表マネジメントが、ついつい管理に走って人をがんじがらめに縛りがちであるのに対し、裏マネジメントは、未知のテーマに挑戦する人を支える。また裏マネジメントでは、マネジャーは階層で上位だから知識の上でも上位だという発想は通じない。とりわけ未知への挑戦においては、知らないことは知らないと素直に認め、組織のメンバーたちがそれぞれの経験と思考を踏まえて議論し合い、新たな知識が創造される場をつくり出す必要がある。

と言うことから見れば、管理する立場だけの「垂直方向のマネジメント」ではなく、コントロールしつつも部下と協働する「斜め上からのマネジメント」という風に当方は解釈した。この「斜め上」というのが肝だと当方は思っていて

もうひとつは

「働く大人は社内だけで学んでいるわけではないかもしれない」ということだ。すでに見てきたように、「同じ職場と社外」に〝かかわり先〟をもっている若手・中堅は、成長感もモラールも高い。

ということで、伝承したり、指導するメンター的存在は、社内だけに求めず、広く「外部」に学びに行かせる、という手法もありだな、というところ。当方的には、これは大学とか学校とかに再び行かせるという意味ではなく、部下に、経験を積んでメンターになりうる人を紹介する。彼ら彼女らから話を聞く機会をつくる、といったことがメインであると考えていて、これは例えば会社の接待に場に同席させる、とか、相手方の訪問の時に同行させるとか、なんとなく、昔の「背中を見せて育てる」といった手法のリメイクといった気がするのである。とりわけ、

右肩上がりの成長が見込めた時代なら、人はハードシップで鍛えられながらも、喜びを感じやすかっただろう

しかし今後はどうだろう。私と同世代である現在の若手・中堅たちや、これから大不況の中で働く場所を見つけなくてはならないもっと若い人たちに、「修羅場を経験しろ」とはっぱをかけるだけで、彼ら彼女らはそれに挑戦しようとするだろうか

といった疑念の出てくる、「長い低迷時代」にあっては、修羅場で人を鍛える、という手法より有効であるかもしれない。

そして、

上司がなすべきことは、個人の熟達を手とり足とり支えることや人材育成のすべてを担うことではない。「人が育つ実践共同体(この場合は職場)」をつくること、職場のメンバーが成長するような社会的関係や職場の風土をデザインすることではないかと思う。そしてさらに重要なことは、上司が実践共同体の「一部」として、上司自らも「学び続ける存在」として「成長」をめざすことにある。

と、「上司の役割」を明示的に限定しながらも、「やるべき役割」を明確にされているあたりは、「上司による指導」を語る面で外してはいけないところであろう。

【まとめ】

レビューの方向性を「ノウハウの伝承」「指導のノウハウ」といった目線からしたので、取り上げる方向性も限られてしまったが、現在の「組織の弱体化」の原因は、今までの階層性を壊したと同時に、「経験を伝授する機能」も壊してしまったことにあると思っている。

ただ、組織が再生するためには、今一度「教える」システムを取り戻すしかないと思っていて、本書のアプローチはかなり「ツカエル」気がする。

すべての企業内研修の企画者が目を通しておくべきであろうな。

(2018.09.22追記)

先だって、レビューした『中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する」(光文社新書)』では、マネジャーのほとんどがプレイングマネジャーとなりながら、プレイヤーとしての実績を求められる部分が多くて、「指導」という場面が弱くなっているということを紹介した。
 
でも、今どき「管理」だけに特化できるマネジャーは「絶滅危惧種」に近くなっているという状況は間違いなく、全ての「プレイングマネジャー」の仕事に「部下育成」が含められるのが大多数であろう。でも「仕事をするコツ」は今まで教えられてきていても、「人を育てるコツ」はなかなか伝授されることが少なく、以外に時間をとることに驚いている人も多いはず。
 
同書から、「プレイングマネジャー」向けの「部下指導のコツ」的なところを抽出してみた。
 

【指導のコツは4つ】

 
まず、(理屈っぽく)分類されているのが
 
第一に、タイミングを考える
第二に、成功経験だけでなく、失敗経験も語る
第三に、プロセス(出来事の連鎖)をつまびらかにする
第四に、吟味や反論の可能性を認める
 
ということで、第一のコツは「文字通り」であるのだが、第二のコツ以降はちょっと補足しておきたい。
 

【「失敗体験」を積極的に語る】

 
第二のコツの「失敗体験」を語るべきなのは、上司による部下指導、特に「呑み屋」での部下指導は、自慢話、内輪話に陥ることが多いので、それを防止するためなのだが、失敗体験を多めに語ったほうがよい。というのが、成功体験というのは、それぞれの条件(幸運なことも含めて)に依存することが多いのだが、失敗には多くの共通点があるので、むしろ、その共通点を知ってもらうほうが、若手職員がこれから事をなすのに、前轍を踏まないようにサポートできる。さらに成功体験でも中には「プチ失敗」あるいは「失敗の未然防止」的なことは隠れているので、そこらを中心にしたほうが良いと思う。
「成功体験」は「失敗」とあわせて伝えるほうが、しっかり人の心には残りますので。自慢話をしたい向きもご安心を。
 

【背中を見せる】

 
第三のコツは、そのまま読めば、「5W1H」、自分が思ったことと教訓をはっきりさせなさいということなのだが、「言葉」で語るよりも、プレイング・マネジャーであれば、その姿を実地に見せる、という方法を組み合わせたほうがいい。
 
同書でも
 
彼ら彼女らがプレイングしている様子」は、つねに部下の視線にさらされている。となると、マネジャーは直接、教えてはいなくても、部下の方ではマネジャーの行動の観察を通じて、「そうか、あんなふうにプレイすればいいのか」というふうに学ぶ機会を得るのではないだろうか
 
とか
 
マネジャーがプレイングな状況にあるからこそ、何かを言われた部下は、言われた内容が腹に落ちるのではないだろうか。「プレイしているあの人が言うんだから、そうなんだろう」という感じ
 
とあって「背中を見せる」ことの効果を挙げている。この「背中を見せる」のは、いわゆる「管理」だけをしているマネジャーには出来ないことなので、「プレイイング」している現場を使えるという、プレイング・マネジャーの利点をしっかり使ったほうが良い。ただ、最近は人員も限られて、現場に部下を同行させられないことも多いから、背中の「見せ方」は、リアルな方法だけでなく、いろいろ考えないといけないな。
 

【持論に拘わらない】

 
第四のコツには
 
経験はつねにどんな状況にもあてはまるとは限らない。上司の経験の中には、今のビジネス環境に照らせば時代遅れになってしまっているものもある。そのエピソードが今に通ずるものななのか。教訓に妥当性があるのかを、きちんと部下と話し合えることが重要になる。
 
と同書も補足されているのだが、これを担保するの「プレイングマネジャー」側の心構えとして、「持論に固執しない」ということが必須で、同書では
 
貴重な経験を積み、十分な振り返りをへてせっかくつくり上げた持論でも、それが絶対化し、安定化し、変わらぬものになったとき、あるいは、いつでも、どんな人にも、どんな状況にも適用されると思い込んでしまったとき、それは「危険な持論」に変貌する。
 
と「第2章」で「持論」が障害になる場合が記されている。
 
ここで「持論に固執しない」とあえて補足したのは、経験に基づいて抽出した「持論」がきちんとしていなければ、部下への説得力もないし、部下の「ハウツー本」で手に入る方法論を求めてはいないので、効果的な指導に「持論」は不可欠なのだが、オールマイティに使える「持論」は存在しない、と思って置く必要があるからである。「指導」が「説教」に変化してしまわないためにも、ここの辺はこころしておかないといけないでしょうね。
 

【すべてのプレイング・マネジャーへのエール】

 

以上、『中原淳・金井壽宏「リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する」(光文社新書)』から抜粋しながら、プレイング・マネジャーの部下指導のコツをまとめてみた。「働き方改革」といわれながら、「改革」の効果が一番届きにくいのが、この層。こうしたTipsを参照していただいて、自己防衛を図ってくださいな。

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日本一の人口最少県の住人。地方公務員、社会福祉法人役員を経て現在、行政書士開業中。

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