ビジネス書の主人公というものは、先端を走っている経営者か、傾いた会社を立て直した中興の人物、ビジネス系の小説は、時代に裏切られた非業の経営者といったところが定番なのだが、本書は
社長になる人は、ひと握り。多くは、エネルギッシュに動く社長に日々、振り回され、ビジョンを実現していこうと奮闘している人たちなのではないか。もしかすると、普通のビジネス書の読者の多くは、そういう人にこそ、学ぶべきなのではないか。
ということで、普通なら社長がインタビューを受けている後ろに控えている人たちをとりあげた異色のビジネス書である。
第1章 カルビー 松本晃(代表取締役会長兼CEO)のまわり
第2章 Dena 南場智子(代表取締役会長)のまわり
第3章 ストライプインターナショナル 石川康晴(代表取締役社長)のとなり
第4章 隈研吾建築都市設計事務所 隈研吾(主宰)のまわり
第5章 中川政七商店 中川政七(代表取締役社長)のまわり
第6章 サニーサイドアップ 次原悦子(代表取締役社長)のまわり
となっていて、とりあげられている企業は、日本有数の総合食品メーカーから有名建築事務所、創業100年を超える伝統工芸メーカーと多種多様。そして取り上げられる人たちも、「カルビー」はフルグラ事業本部本部長、海外事業本部本部長。「Dena」は会長室の会長専任担当。「ストライプインターナショナル」からはkoe事業部部長、宣伝部部長、文化企画部部長。「隈研吾建築都市設計事務所」の代表取締役、コミュニケーション・ディレクター。「中川政七商店」はバイヤー、デザイナー、デジタルコミュニケーション部部長。「サニーサイドアップ」の社長室副室長、バイスプレジデント、とこれまた多士済々のラインナップである。
もちろん、どなたも社内では有数のキレ者、デキる人なんであろうが、どの企業も経営者自体が個性的で、先端を走っていて
「川が目の前にある。浅さや深さを分析して、このあたりを歩いたらいい、と方針を示す人はリーダーではない。リーダーは自ら片足を突っ込んで、どこが良さそうかを探して先頭に立って川に入っていく。仮にトゲが足に刺さっても、後ろに不安を与えないように堂々としながら歩んでいくのがリーダー
と言った経営者、トップばかりであるから
常に求められるのは、スピード。しかし、雑にするわけにはいかない。そのためにも準備が問われる。だからこそ、常に臨戦態勢が求められる。 「あちこちで先回りしておかないといけない。言われていないのにやる、くらいがちょうどいいと思います
といった具合に、精神的な意味でもハードワークの環境であるのは間違いないようなのだが、登場するどの人も、そんなハードな「働く環境」を楽しんでいるように思える。おそらくは、ひた走るトップに遅れまいと、必死になって伴走していくことによる「ランナーズ・ハイ」のような現象もあるのだろうが、仕事による高揚感は、何者のも替えがたい充実感であろうな、と当方の拙い経験からも納得してしまう。
そして、そういう仕事環境であるから
「会長室のミッションは、会長が持っている力をいかに最大化するか、ということです。会長がどんなパワーを持っていて、どこをどうレバレッジして、どんな課題に対処するか。それを最大限に支援して、会長の力をすべて出しきってもらう、ということを常に考えている
とか
「はいはい、と全部、聞いていると、それはそれで使いやすい人になるとは思うんですが、やっぱり自分の専門があるわけですよね。だから、石川の言っていることに違和感があるなと思えば、ちゃんと反論して、〝これはこうで、こうなんで〟と石川が納得できるようなことが言えないといけない。それは思っていましたね」 そのためには情報武装、スキル武装をしないといけない、ということだ。 「そうしておかないと、突っ込まれたときに答えられない。自分が間違えることにもなりかねません
や
「TO DO管理などは一切やらないですね。メモもあまり取らない。忘れるようなことは優先順位が低いと思っています。大事なことは基本、忘れない。そもそも、リストのメンテナンスに毎日30分、1時間使うくらいだったら、さっさとやっちゃった方がいい
とか
できるだけわかりやすく、1枚の資料をPDFで添付するという。 2枚になるとダメです。1枚にする。これは打ち合わせにおいても同じです。しかも、絵で見てわかるようにする(ストライプインターナショナル 中村雅美氏)
のように、高い能力を持って、相当のスピードで走っていく「トップ」に使える心構えと、仕事のノウハウのエッセンスが、会社の違いはあれ、あちこちにでてくるので、「多くのビジネスマン」にはとても有益な情報が得られるのは間違いない。もちろん、
オン・オフという発想で仕事を考えてしまうと、どうしても時間に追われることになる。オンの最中に子どもに何かあれば、オンなのに、ということになる。オフの時間に仕事の連絡が来れば、オフなのに、と思ってしまう。オン・オフという考え方をなくせば、そういうストレスはなくなる、ということ
といった「シゴト ノ ススメ」もあるので、まあ、それぞれの環境に応じて応用しましょうね、とは言っておこう。
さて、本書に登場する人たちが仕えているようなトップはそんなにいるわけではないだろうが、ビジネスパーソンのほとんどが、「トップの伴走者」という状況であろう。「こんな走り様もあったんだ」というヒントを得られるところは間違いない一冊です。
(追記)
「社長の「まわり」の仕事術」の「サニーサイドアップ」のところで、「良いな」と思ったフレーズがある。それは
これはどんな組織でもあると思いますが、何か取り組みを進めると懐疑的だったり、否定的なことを言われたりすることもありますよね。そういうときに、直接受け止めると、疲れるし辛いわけです」
だから、絶対にいいものだ、本気でやるべきだ、と判断したものに関しては、〝鈍感〟になることにしている。
(略)
「それは、本当に鈍いんじゃなくて、自分を鈍く仕上げていくということです。それで丸く収まることがすごくたくさんある。全部にいきり立って、こうあるべき、こうじゃないか、というスタイルもあるのかもしれませんが、そうではないポジションを取るべきだな、と思っています。」
というもので、新しいものに常にチャレンジしている同社の中枢にいる人らしい発言である。
とかく、目新しいことや、今までのやり方を変えようとすると、有形無形の抵抗に遭うのは、どこの組織でもあることで、ともすると、そういった内部の抵抗を打ち破ることのほうが、新規事業をやることより難しい場合すらある。
とりわけ、その抵抗は「客観性」などといったもっともらしい衣をまとってやてくるから、その撃破に結構力がいって、どうかすると面倒になって、新規プロジェクトをやる気が失せて、プロジェクト自体が雲散霧消してしまうことすらある。
そういう時に、この「鈍感になる」というアドバイスはとても有益である。そして、この「鈍感になる」ということは、けして、「抵抗を無視する」、「傍若無人に振る舞う」ということを意味しているのではなくて、プロジェクトの欠陥の指摘については謙虚に受け止めつつ、漠然とした不安感や、新規なものの考案者に対する嫉妬については、キレイに無視する、といった感じで捉えるべきであろう。
「客観的に分析すると」や「現実を直視すると」といった、新規プロジェクトに対する批判は、「主観的で」「個人的な思い込みと夢想」に根ざしていることがよくあるもの。いつも明晰であるよりも、適度に「曇って」いて、「鈍い」ことが、突破力をつけるには大事なように思えてきますね。
(追記の追記)
組織運営に関して、「おっ」と思った記述があったので、ちょっと引用。それは、中川政七商店のデジタルコミュニケーション部部長の緒方恵さんのインタビューで
「会社にはいろんな仕事が発生するわけですが、『これは社長はどう思うかな』という主語で議論がなされたりしたら危ないですね。お客さまを主語にしないといけない。内向きの話が多くなる企業は、組織として黄色信号です」
「あそこの人材配置悪いよね」「あっちのチーム、ラクしてない?」なんて声がでてくると、危険だという。
「それは、お客さまを主語にすることで、けっこう防げたりするんです。大事なことは、工芸を元気にすることであり、社長を納得させることではない」
というところ。
これは特にトップダウンで進んで、うまくいっている組織の落とし穴として気をつけたいところですね。もちろん、トップダウンで組織を活性化し、時代をとらえて躍進したことは、トップの眼力とリーダーシップによるところが大きいのだが、一時期をリードした人でも、時を経ると奢りもでるし、時代とのズレ・ブレがでてくることは避けがたいこと。組織全体から見ると、その価値判断の基準を、いつまでもトップのものだけに頼ってしまうことで、時代の変化を取りこぼして、組織が衰退してしまう恐れがでてくる。
この時代とのズレが出ていないかどうかを、「お客さま」という視点から点検するということなのだが、ここは、ありきたりの「お客さま」目線で、といったことではなく、「多様な価値観でとらえること」の重要性としてとらえるべきだろう。
というのも、状況悪化が少ないときに、従来の価値観に基づいた「お客さま目線」では、時代や世間の変化に気づかない事が多い。この段階で異変の兆候をつかむには、いろんな目線で物事を捉える、分析するといったこと、すなわち、「はぐれた」視線から今の状況を分析するといったことでしか発見できないものである。
好調なときには、人知れず衰退の種が忍び込んでいるもの。そんなときほど「越境」した視点から捉え直すことが必要なんでしょうね。
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